『・・・いちあし殿!いちあし殿!』
『いつまで眠っておるのじゃ、いちあし殿!』
誰かが私を起こそうとしている。
眠い目をこすりつつその声の主を見ると、
何やら平安時代の装束に身を包んだ男の姿。しかもイケメン!
『何を寝ぼけておるのじゃ。「まらそん」とやらの時間であろう?』
そうだった。朝のランニングの時間だ。
そして彼は光くん。そう、あの有名な「光源氏」である。
どうやら平安時代から現代にタイムスリップしてきたらしい。
そしてどういう訳か私の部屋で一緒に暮らすことになってしまった。
信じられないかもしれないが本当の話だ。受け入れるしかあるまい。
身支度を整え家を出る。早速走り出す私。
『いちあし殿、毎回よく走りますな~。』
感心している光くん。
彼も電動補助付き足漕ぎ車・・・、あ、アシスト付き自転車のことね。
それに乗って付いてくる。律儀に毎回私の練習に付き合ってくれているのだ。
『それにしてもいちあし殿、何故そのように走っておるのじゃ?』
『私のいた京の都ではそのように走っておる者など一人もおらぬぞ。』
『大体急いでいるのであればこの足漕ぎ車を使えば良かろう?』
どうやら平安時代にはマラソンは無いらしい。
光くんは私が練習する度に驚き、そして「なぜ走るのか?」と聞いてくる。
「なぜ走るのか?」
なぜだろう。
マラソンを始めてからというもの、知り合いに何度も聞かれたし、
また自分自身でもなぜ走るのか考えたりもした。
しかし何度考えてもうまく言葉にできない。
なぜ走るのかを考えながら走り続ける。
と、ここで光くん。
おもむろに和歌を詠いだす。
『若草の にほえる春や 抹茶てふ
恋しきものぞ 我はけふ知る』
(解説)
若草が香り 花が美しく咲いている春
抹茶という 恋しいものを 私は今日知った
光くんの手にはいつの間にか抹茶フラペチーノが。
どうやら初めて飲んでその美味しさに感動しているらしい。
さすがは平安貴族。朝からなんとも優雅なものだ。
そんなこんなで今朝の練習は終了。
結果はこちら↓
シューズ:ライトレーサー
目的:体に負担をかけずにゆっくり走る
結果:腰に違和感あり
『いちあし殿、そなたも一句詠んでみてはいかがじゃ?』
和歌など詠んだことは今まで一度もないが、
令和に生きる男としてここで黙って引き下がるわけにはいくまい。
意を決し、詠いだす私。
「走りたい 走ってみたい 思いし日
その日の気持ち 今も心に」
(解説)
恥ずかしいのでナイショ。
『案ずるでない。そなたの気持ち、きっといつの日か誰かの心に届くであろう。』
どうやら光くんはうまく詠えなかった私のことを慰めてくれているようだ。
光くんは実にいいやつなのである。
それにしても光くんはいつ平安時代に帰れるのだろうか。
無事に元の世界に帰って欲しいものである。
※当記事の内容は私の妄想であり、実在するドラマとは一切関係ありません。
なお、NHKよるドラ「いいね!光源氏くん」は
明日23時30分より注目の最終回が放送されます。お見逃しなく!