朝早く。自宅最寄り駅より電車に乗り、都営地下鉄三田線の蓮根駅で下車。
会場への道はよくわからなかったが、周囲の人の流れに着いていく。
ほどなく荒川河川敷に到着。
土手があるため、向こう側の大会会場がどうなっているかここからでは見えない。
階段を上がると、そこに広がる景色を見て私は思わず息を飲んだ。
人だ。
河川敷いっぱいにたくさんの人がいる。
そう、今日2013年3月24日は板橋Cityマラソンの開催日なのだ。
人の多さに圧倒されつつも、準備を整えスタート位置に整列する。
そして時間になり、いよいよスタートだ。
すると皆なぜかコース右側に寄っていき、何やらハイタッチをしている。
『ワイナイナだ!』
そう、あのオリンピックメダリストで、TBSの赤坂ミニマラソンでもお馴染みのワイナイナさんが今大会のゲストなのだ。
さすがは都内随一のマンモス大会と言われているだけのことはある。
「人生の罰ゲーム」と称される東京喜多マラソンとは大違いだ。
私もニッコリ笑顔のワイナイナさんにハイタッチをしてもらう。
こうして私の2回目となるフルマラソンの挑戦が始まった。
コース沿道の桜並木がちょうど満開で本当にきれい。
その桜を見ながら、私はここに至るまでの日々を思い返していた。
あれは去年11月のこと。
初マラソンの練習で3か月かかったことが今回たった1か月ででき、残りの練習期間があと5か月。
自分は一体どこまで速く走れるようになるのか。
この調子で練習していけばものすごく速く走れるのではないか。
そう思っていた矢先。
やってしまった。
故障。怪我である。
右脚が肉離れぽっかったにもかかわらず走ったことにより、着地の際の衝撃の吸収が上手くできなかったようで、右脚の付け根に激痛が。
2、3日で治るかと思いきやなんと丸々3か月間、痛みは続いた。
走るどころか歩くのもままならないぐらい。
力の入れ方を気を付ければなんとか歩けたので仕事は何とかなったが、毎日本当に大変だった。
走れない間、公園などで走っている人を見かける度、うらやましくてしようがなかった。
痛みが治まり、やっと走れるようになったのが今年の3月に入ってから。
結局たったの1か月弱しか練習できなかった。
そのため自分が一体今どのぐらいのタイムで走れるのか全くわからない状況。
無事完走できるのかどうか。それさえも危うい。
それでも少しでも早くゴールできるよう、がんばって走る。
気が付くと、いつの間にか30km地点を通過。
不安だった脚の付け根も大丈夫。
そして思っていたよりはるかにいいペースでここまで来ている。
このまま最後まで走れれば、まさかの4時間切りもいけそう。
そう、市民ランナーの憧れ「サブ4」が見えてきた!
35km地点を通過。残り7km。
この5kmのラップが、サブ4達成ペースより少し遅い。
4時間を切るためにはここからスパートをしなければならない。
しかし、ここに来て新たな問題が発生。
「腹痛」だ。
それもトイレに行きたい方のやつだ。
心当たりはあった。
前日からの食べ過ぎだ。
マラソン大会に臨むにあたっては、エネルギー切れを起こさないよう前日からたくさん食べた方がいいとネットに書いてあった。
それを素直に受け取り、実行したのだったが、考えてみると私は元々小食だ。
もっと自分にあった食事にした方が良かったのだろう。
しかし今さら後悔しても遅い。
トイレをどうするか。走りながら悩む。
今トイレに行けば4時間を切るのは不可能だ。
サブ4を達成するチャンスなんて今後もうないかもしれない。
残りあと3km。
なんとか最後までこのまま。
そう思い走り続けるが、ペースが少しづつ落ちていく。
時計を見ながら頭の中で必死に計算する。
このままでは4時間を1分ちょっとオーバーしそうだ。
全てをかなぐり捨ててラストスパートすれば、もしかしたら・・・。
と、ここでお腹の痛みが強くなる。
このまま走り続けてゴールした場合のことを想像する・・・。
『マズい。』
ゴール付近はおそらく走り終わった人と応援の人たちとでごった返していることだろう。
そんな中、もしも私がゴールと同時にあっちもゴールしてしまったら・・・。
伝統ある板橋Cityマラソンに、その名の通り「汚点を残す」ことになってしまう。
それだけは避けなければ。
残りあと1km。
私は歩き始めた。
サブ4達成は大切だが、人としての尊厳を守ることの方がもっと大切だ。
周りのランナーがサブ4目指して渾身のスパートをする中、私は歩いていた。
しかし私はゴールをあきらめたわけではない。
必死だ。
お腹に響かないよう、走らずに必死の早歩きだ。
早くゴールしなければ。
そしてマラソンゲートに到着し、ついにゴール・・・
ではない。
ここは今の私にとってはゴールではない。ただの通過点だ。
その先の、あの青いボックスが本当のゴールなのだ。
ようやくここで走り出す。
よし、もう少しだ。
と安心したその時、後ろから一人のランナーが私を追い越していく。
どうやら彼も本当のゴールを目指しているようだ。
『ヤバい!』
もし彼に先を越され、トイレがすべて埋まってしまったら。
私のお腹はもう限界だ。一刻も早くトイレに入らなければ。
彼にだけは負けるわけにいかない。
『ここが勝負!』
そう思った私はここで渾身のラストスパート。
「絶対に負けられない戦いが、そこにはある。」
きっとキロ4分は出ていたであろう。
圧倒的なスピードで前を行く彼を抜き去ると、トイレに駆け込む。
ゴール!!
『よかった。間に合った・・・。』
痛めていた脚のことなどすっかり忘れ、安堵する私。
こうして私の2回目となるフルマラソンの挑戦は終わったのであった。
記録:4時間15分01秒
板橋Cityマラソン
2021年はオンラインでの開催です。